カウンター

第3話 儚い生と想い


主な登場人物

  • ジェイド・ウェゾ・ドラコ
  • エルベス・グリフィンド
  • グリフ・ウィズ・ドラコ
  • ロン・グリフィンド
  • ヘリギストス・リンク
  • レン・ラ・リンク
  • カネムラ・キャビゾン
  • ラディス・ロイズ
  • ロノ・カヴィレント
  • ユリアス
  • レイ=スローネ
  • ブレイト=マナール
  • 造魔(A-00)

造魔(A-00)



第三話:儚い生と想い

 

 

軍事総本部にはレン・ラ・リンクを含む数人の将校と軍務大臣が現場の状況を確認している。大臣の右に座るレンは不安を隠せずにいる様を見せている。

 

「レン、心配するな。我々は一度も襲撃されて敗北したことはない。首都アリステは陥落させはしない。」

 

「父さん、…こんな事言っておかしいかもしれないがロノ・カヴィレント少将が気になるんだ。」

 

大臣は何故か急に好きな娘のことを相談しているのかと思い込み、少し動揺して焦り口調で答える。

 

「ん。…あ、あぁ。カヴィレント君へのお前の以前からの対応を見れば、私も分かっているぞ好きなことぐらい。しかし彼女は旧ブレイズ王国の地の出身だったな。もちろん愛には身分も種族もないとおもっている、それに彼女はしっかりしているし責任・誠実感もあり、女性のあるべき姿の代表なようなものだ。」

 

「え、いや。今はそういうことではなくてだな、父さん。好きかどうかではなくて…。」

 

レンが焦って父親の誤解を理解させようとして説明に入ろうとするがヘリギストス大臣はテンパっていてまともに彼の言葉は聞こえはしなかった。

 

「…なんといってもアノ体型…スタイルが私の理想だ。ボン、キュッ、ボン……。」

 

父親の頬が赤くなるのを見てレンは恥ずかしくなったが、真面目な印象の父さんが今こんなにも崩れたのは久しぶりだった。

 

 

 

他の将校が冷めた目つきでこの親子を凝視していた。それに気付いた大臣は一つ咳をして表情を戻す。

 

「っゴッホン。…で、何がちがうんだ、レン?」

 

「確かに違…わないけど、何か嫌な気がして、念のために金村にエリア3へ向かわせたいんだ。だが…アリステにいる金村の小隊をそこにいちいちよこしていいのかどうか、悩んでいるんだ。」

 

ヘリギストスはあぁなんだという感じでため息をついた。

 

「敵数はアリステより遥かに少ない、心配無用だとはおもうがな。まあ、判断するのはお前だ、レン。だがとりあえずカヴィレント君に状況を確認すれば良いのでは?」

 

「……。そうだな、ありがとう父さん。情報部、聞こえるな?急遽ロノ・カヴィレント旅団部隊総本部へ繋げてくれ。」

 

情報部は了解と言って無線機を操作する。しかしどんなに少将の部隊からは何も応答はなかった。

 

「リンク大将、応答がありません。もしかすると向こうの通信機に異常が発生したものとみられます。各戦闘機や母艦、軍営や駐屯地全て共に繋がる様子もみられません。」

 

情報部の一人からの報告に、この場の全員が驚いた。敵軍が多く攻め入るアリステでさえ通信ができた。エリア3の情報が全く分からなかった。

 

 

 

「レン、カヴィレント君の『TH』のアドレスを知っているな。一応掛けてくれ電波の周波数が軍事のものとは違うはずだ。彼女の安否確認と情報聞き取りをしてくれ。」

 

「あぁ、わかっているさ。」

 

レンはそう言いながら急いで手提げ鞄からTHを取り出し操作し始めた。しかしその時、通信機に反応があった。

 

 

 

―――キィーッ、ザ、ザ、ザッ、ザザッ…―――

 

 

 

急にどこからかキャッチしたようで通信されてきたのだ。

 

 

 

「リンク大将、エリア3内からの電波をキャッチしました。」

 

「何?ロノんちのエリアだと?」

 

レンは驚きながら総本部へ繋がせた。

 

 

 

『リンク陸軍最高指令官、我がライド大帝国の先端技術でエリア3領域内の電波を他の波に変換させていただきました。結構本部も動揺してますね、まさかこんな簡単に入り込めるとは…。常夜の国、ダークナイツですか、これではわが国には到底敵いませんよ。中枢を成すものがこんなんでどうするのでしょうか?』

 

 

 

聞き覚えのない男の声が聞こえる。レンは目の色を変えた。

 

「誰だ貴様は。ライドの軍の者だな。情けない、我々の通信技術がこんなにもヤワだとは…かなりの欠陥だ。」

 

『ダークナイツは戦闘技術が発展していると聞いているのですがまさかこの程度でライドに負けまいとでも思っているのですか。早く我々にこの常夜の世界を譲ったほうがいいですよ、死なずに済む国民が殺されますよ。我々のもつ創る力で!』

 

 

 

この場にいた将校らは皆固まった。『創る力』とはどういう意味をするのか全く検討がつかなかった。

 

 

 

『貴方たちの脳内では処理がいかないようで、まぁ話してしまってもその様子では問題なさそうですね。…ヒトは古くから、我等のライド国主権の世界や貴方たちの国が主権のダークナイツムーン連合のある暗黒の空間世界といったような、様々な空間世界が複雑に存在することを理解していたでしょう。そして一部の世界では異界への道を開き外来生物を呼び出すという召喚技術を開発していった。しかしその呼ばれしモノが確実に己の力として動いてくれるわけではく、契約も困難だったようです。私たちは神DEEP-BLUE様のご加護を享けて自ら異界を越えてきた存在、悪魔を作り出すことを可能にしたのです。DEEP-BLUE様のお声を聞くことができるのは皇帝であり教皇の役割も担うライド様のみでございますがね。』

 

「ライドは悪魔を造り出したのか!だが何故神がそのようなことをさせるのか、いや、そんなわけあるまい。ライドが『神』という名を利用し悪の根源を生み出しているにすぎない。悪魔の召喚は全世界で禁止となったんだ、全ての世界を敵に回すことになる、そんなことをすればいくら大国でもっ!」

 

レンは言葉に怒りを込めながら男の声の聞こえるスピーカーに怒鳴りつけた。

 

 

 

『悪魔をこの世のに呼んではいないのですよ。奈落界タルタロスの奥底に縛り付けられている力をこの世に実体化させたというだけです。この試作品を貴国のランパシルス州、エリア3で実験させていただきます。その器となるものはこの世のものなので多くは長くもたず魔物がほとんどなんですが、一体だけ造魔を用意しました。さすがに首都アリステではかわいそうなので隣のエリアにしてやりました。それに以前ダークナイツ国が存在しなかった頃のこの世界の三大国であったブレイズ帝国王家の血をひく元将校の末娘、今エリア3を拠点としているカヴィレントさんがいるとききました。ブレイズは将校とくにカヴィレント家中心に何度か我々の悪魔研究の邪魔してきていたと皇帝はおっしゃっておりました。また、ダークナイツはブレイズに勝ち権力者を処刑したらしいですが彼女だけは残している。何か意味があるのでしょうか、余計に彼女を始末したいものです。』

 

 

 

ライド大帝国からの男はそう言い残し通信を切った。この総本部がこんなにも静寂さを保っている様子は珍しく、そして重々しくも感じた。しかし心の中では皆、大騒ぎをし慌てふためいていた。

 

 

 

「…つまり、エリア3のほうが…まずいぞ、おい!…早くロノに伝えないと…。」

 

総本部のセンタールームから出てきて、陸軍最高司令官レン・ラ・リンクが数人の部下を引き連れながらTHを片手に持ちながら駆ける。開いた自動ドアが閉まるまで、大臣は息子の険しそうな背中を真剣な目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

エリア3。

 

人気はもう全くなく、殺気あふれた魔物がちらちらと見えるくらいとなってしまっていた。そんな荒地と化している地面に一機のヘリコプターが着地している。その少し離れた所に二人の軍人が魔物に対抗していたのだった。

 

 

 

スバーッン!!!

 

 

 

「どうだ、この俺サマが改造したランチャーは!」

 

赤毛の犬耳の獣人がロケットランチャーを魔物に向けて発射した。だが、勢いよく攻撃したわりにはあまり魔物には効いていないようだった。

 

「はい。金の無駄です、金村少将。」

 

「金村ってなんだよ、カネムラ・キャビゾン少尉だ!もしかしてわざとか!?コノ無表情野朗!」

 

 

 

単独行動中のカネムラ・キャビゾン陸軍少尉とロノ・カヴィレント少将の部下の特殊選抜騎士団(グランドナイツ)員でもあるラディス・ロイズ空軍上級曹長が魔物の排除を試しみていた。

 

 

 

「敵にそれは効かないようですね。サーベルをどうぞ、少尉。」

 

「おぅ、サンキュー。」

 

カネムラは急いでラディスのほうへ駆け寄り、軍刀を奪い取るように引き抜いた。

 

「おーっ!よっしゃ、2つもくれんのか、二刀流でもやってみっか!」

 

「あ、いえ…。一つは自分の分なので……。」

 

ラディスがそう言いきる前に早速ザクザクと二つの刃を魔物に斬りつけている。

 

「へぇー、サーベルだと斬れるのか。まあ、特殊な魔性金属で出来てるしな!…っほいっと!!

 

 

 

カネムラは敵に無駄を与えず優雅にそれでいて大胆に斬りつける。次々と周囲の魔物が体を崩され倒れていく。惨いことにも血にまみれながらカネムラは確実に敵を殺していった。ラディスは何も使えそうな武器は周囲にはないので、ただ呆然と少尉の腕前に感心し眺めていた。

 

途中でラディスが空から飛んでくるモノにに気が付いた。敵だと認識したが武器が無いのでの魔物相手に魔法攻撃でなんとか対応しなければならなかったが、よく見ると敵意はなくしかもこちらに手を振っているようにも見える。

 

 

 

「おーい、金村さん!僕も来ましたよ。」

 

 

 

空に王子ジェイドとその従者エルベスがいるのに気付いたカネムラは敵が片付いたのを確認したあと顔を上にあげた。

 

 

 

「金村さん、調子はどうですか?大丈夫ですか?」

 

彼らは着陸し、王子が鳥獣に変化したエルベスから降りた。

 

「よっ、ドちび王子!まあな今んとこは問題ない。ってかよくここに来たっすねぇ、まさか過保護な陛下から許可が得られたなんて思いもしなかったぜ。」

 

「う、…そ、それはまぁー。……ていうかドちびは言わないでよ!」

 

エルベスは元の姿に戻りカネムラと挨拶を交わした。

 

「おい、金村聞いてくれよ、俺はここにジェイドを連れてきたくはなかったんだよ!だけどロンって言うクソ親父がサー…!!

 

エルベスは心配そうに困って言ったが、ジェイドは笑顔で全力で無視。

 

「あれ?エリー先輩はちゃんと親が誰か認識していたのか!?へぇ、それはすごいことだな。」

 

「ムッキーッ!!なんだよ、その馬鹿にした言い方は!おまえふざけんなよ!」

 

 

 

エルベスがキレて怒鳴っている。ジェイドとラディスはまた始まったよこのコンビ、というふうに遠い目で彼らの喧嘩を眺めていた。カネムラが少し怒ったように笑う。

 

「…っ別にそんなんじゃないぜ、先輩さんよぉ。それに、これは他のヤツも該当するかもしれないが、いちいち名前の漢字変換するんじゃねぇよ、このクソエロベス!」

 

「エロって何さエロって!?たとえ俺がクソになるの認めても絶対にエロにはならないからな。レンやおまえのほうが十分女好きだしエロいじゃんかよおおおお!」

 

 

 

…ガルルルルゥーッ……ッガフゥッ!!!!

 

 

 

突然巨大な牛のような人獣型の魔物がエルベスの背を狙ってきた。カネムラはジェイドとラディスを守れるように体勢をすでに整えていた。敵が唸り声をあげて手をエルベスに突きつけると同時に、エルベスはその手の鋭い爪をかわし上手に振り向いた。

 

 

 

「―Trailing Plants(トレイリング・プランツ)―」

 

エルベスは右手を敵に向けて唱えた。

 

 

 

その言葉とほぼ同時に彼の足元から地を這うように鋭い根が敵をしたから串刺しにし、右手からは青白い光を発しながら美しい木の枝に絡まるように葉をつけながら伸び敵の首を貫く。これにより出来上がった木は美しかったが、根、茎、葉には残酷にも魔物の奇妙な血が流れ落ちている。

 

 

 

敵は一瞬のうちに息の根を止め、エルベスの口はかすかに笑みを浮かべているようにも見えた。ジェイドはこの出来事に驚いた。急に襲ってきた魔物にも驚いたが、それよりもエルベスの何時にない俊敏さや残酷さには声も出ないほどだったのである。

 

不機嫌そうにカネムラがエルベスへ歩み寄り、木になったような魔物の死骸を見ながら言う。

 

「ちぇっ、あーと少しだったのにな…。やっぱ、本物の馬鹿…ではないのか。」

 

エルベスが顔色を変えてカネムラに怒った。

 

「…は?おいっ!後ろにいたのを知っていたのに教えなかった、ってコトかよ!おまえ、俺を殺す気なんだろ、絶対そうだよな、クソッタレめっ!!

 

「ああ、もちろ…。…ん、いやぁ別に。先輩なら強いから大丈夫だと思い、実力を見せていただきたかったからですぜ。」

 

「いや、絶対違うから、絶対!殺すつもりだったろ、少なくとも死んで欲しいと思っただろ!」

 

「他者のことを言うのに絶対なんて言葉、本人以外は簡単につけていいもんじゃないぜ、エリー。絶対なんて絶対あり得ないっすよ。」

 

「おまえになら言い切れるから!おまえになら!!絶対!!!

 

 

 

再び二人の口喧嘩がスタートし、ジェイドもようやく落ち着いてきた。落ち着いてきたというよりだんだん面倒臭くなってきた、もうどうでもいいやと思うくらいに。

 

「疲れるよね、このコンビ…。」

 

 

 

 

 

―そんなら楽にしてやんよ―

 

 

 

 

 

ジェイドがほっとして呟いた時、突然後ろから何者かがそう答えた。首に大きな鎌がむけられてジェイドは叫びながら驚いた…のがつかの間、気付くとその者におもいっきりその首を抱かれてしまい下手に暴れたら殺されてしまいそうになっている。

 

エルベスとカネムラはジェイドの叫び声を聞いて同時に振り向いたがその状態では身動きがとれなかった。三人は突然の王子の危機に何も言葉がでなかった。

 

 

 

「そこの二人、邪魔はすんなよ。俺らの雇い主さんが実験するからターゲット以外の外部からの者はひっ込んでいろよ。」

 

黒衣の茶髪の孤系獣人が鎌を携えて王子を人質にした。エルベスたちの様子を見ていた、彼の隣にいるもう一人の獣人が口を挟む。

 

「ライド軍であったらきっと王子様の命が欲しいところだけど、任務だけをこなしたい僕らは命までは奪う気はないよ。しかし、これ以上先に進むのであれば例外だけどね。」

 

「って、おい、レイ。この赤青鉛筆が先行かなきゃ殺しちゃ駄目ってことかよ!」

 

「今やればここの王が黙っていないだろうし、ライド軍もそのくらいやれるような戦力を今回出軍させていないはずだ。そうなると今後払ってくれるはずの金が、僕やユリアスにまわってはこないかもしれないよ。」

 

「……了解。」

 

 

 

(……、あの、自分もいるのですが。)とラディスは心の中で一生懸命訴えているが、当然誰も気付かない。

 

 

 

「ジェイド、大丈夫だ。今必ず俺が助けてやる。」

 

「おいっ、エルベス!?王子が殺されるかもしれないんだぜ、あいつらに近づくなバカ!」

 

「うっせーんだよおまえは!じゃあ、なんとかしろよ、まさか何もできないで突っ立ってるだけなのにそんなこと言えたのかよ。」

 

「だが今エリー先輩がやろうとしたことあってはいないだろ、このクソッタレ!」

 

「……。わかってるよ、でもいったいどうすればジェイドを…。」

 

 

 

「もしかして赤いのと青いの仲あんまよくなかったり?アホだなぁ、そんならずっとそこで喧嘩してな。こっちもそのほうが楽だ、無駄な力使わずに済むなんて省エネだよこれ。」

 

狐人ユリアスが笑いながら二人に話しかける。

 

「喧嘩なんかしてないよバーカっ!なあ金村君?」

 

「あぁ、全くだ。って赤ってなんだよ、おい!青はともかく!」

 

「いや、青ってのもアウトだろ。…少なくとも俺的には…。」

 

 

 

なんかもういいや、っと後々話しかけたことを後悔し面倒臭がるユリアス。もう一人のレイははじめから三人の下らない戯言にパスしているようで、今回の実験について準備が整ったかどうか他と連絡をとり確認していた。

 

 

 

「―Mha-shi Iceir(マハシ・アイセイア)―」

 

 

 

急にユリアス目掛けてこの季節を疑うような氷柱が、走るように地面から突き刺さってくるように結晶されてゆく。ユリアスも流石に驚き瞳を大きく開け避けることが出来ないと感じる。しかし難しい文字の記された細長い紙を持ってレイがユリアスの前に出る。すると赤みを帯びた透明なドーム状のようなものが二人を囲み、突き刺さろうとする氷柱はそれに触れると一瞬で溶け出し水蒸気と化し見えなくなった。

 

 

 

「…あ、あぁ、レイ。助カリマシタ…あんがと。」

 

同じ雇われものではあるが一応他人は他人、と考えるユリアスは守られることに少し不快さを感じていたがもちろん感謝をしていないわけでもなかった。

 

「ユリアス、もっと警戒していてくれよな。この蛟の如き氷の結晶は自然な状態では不可能、まだここにこいつらの仲間がどこかにいるっていうことだね。」

 

 

 

「おい、カネムラ。俺たち以外にいるっけっか?もしかしてこのエリア内で生き延びた兵士が…。」

 

「…そういやぁ、こいついたっけな。結構強力な魔法攻撃だと思ったが不意打ちにもなっていないのか…。」

 

「…?誰のことおまえ言ってんの?」

 

 

 

エルベスが不思議そうに辺りを見回すとラディスが構えている様子がやっと理解した。無表情ではあるが微妙に、やられた、というような雰囲気から先ほどの氷柱は彼の出した術だったのであろう。

 

「……。(こいつ誰だっけ、カネムラのぉ~、…なんだろう?)」

 

エルベスも驚ききょとんとしている。

 

 

 

ユリアスは少し関心したようにラディスを見る。身動きのとれないジェイドは、もしレイが札のようなもので防がなかったら自分にもあたっていたのでは?というように怒っている。

 

 

 

「結構やるねぇ、白い魚のくせに…。まさか死神と呼ばれた俺があんたの気配に気が付かないなんてな。気を消す奥義なんか一体どこで教わるんだ?」

 

「自分は元から影が…。」

 

ラディスが少し下を向いて答えた。ユリアスを除く4人全員が、ソコ自分で言っちゃうの!?という具合でラディスのほうを向き沈黙している。

 

 

 

「とにかくさっさと実験を開始するよ、ユリアス。そこの王子様にもライドの技術の高さをこの目でしっかり見ていただこうね。一応自己紹介が遅れたので…僕は今に生きる獣人陰陽師の一人レイ=スローネ、以後お見知りおきを。」

 

「おい、レイ!そんなんいいからさっさとやってくれ、今回の任務は元敵国ブレイズの王家の末裔だとかいう女の始末をアイツにさせるんだろ!」

 

「…ん、まぁ、実験が成功すればね。まだ造魔の調子がよくはないけどヒト一人くらいは問題ない。」

 

そう言うとレイは実験を開始するためにロノ・カヴィレント少将の現在位置を確認するように、この国のTH機器に匹敵するようなライド帝国産の万用通信機にむけて命令をした。

 

 

 

「やっぱ、おまえらか…!姉貴に何をするきだ!」

 

「んー、赤いの聞いてただろ。創り出した悪魔で殺すのさ。まあ、この物質界で無理やり媒体に、他の世界から連れてきて閉じ込めたからなぁ、この媒体が悪魔の力にどんくらいもつかソコんとこも計らなくてはね。」

 

「…何で姉貴なんだよ!ブレイズ王家末裔なら、俺だって別にいいじゃねぇか…!」

 

「……?」

 

 

 

エルベスはそろそろ感情を押さえきれないでいるカネムラの様子を見つめる。

 

「おいカネムラ、おまえ大丈夫か?…落ち着けよ。」

 

「……。」

 

 

 

造魔を入れたコンテナのような金属の長方体が降ろされるのと同時に、レイは机と椅子、ティーセットを万用通信機からとりだす。

 

 

 

 

 

「ん、遠くてはっきりは見えないものの、あれはきっとカネムラね!それにエルベスと殿下?…あ、ラディス?…彼もいるけどこのエリアの兵士ではないわよね…。…まだ他に何人かいるみたい。」

 

 

 

草むらの向こうから数人の生き残った兵を保護するかのように引き連れていたロノは援軍が来たと思った。運が悪いことに、疲れた表情の中に少し笑みを浮かべながらも気付いてもらえるよう手を振りながら声を張り上げて呼ぶ。エルベスがそれに気付き、顔を彼女らの方向に向けて叫んだ。

 

「っロノ逃げろ!ライドは造魔でおまえを殺そうとしているんだ!」

 

 

 

ロノには声があまり届かなかった。ロノの率いる兵士らは本当に援軍がきたのか!っと歓喜の声を上げていたのも一つの理由かもしれない。

 

 

 

「ロノさん、ですか。綺麗なヒトだね。一度共にお茶でもしたかったね。」

 

「レイ、造魔をどんどん出してしまうからな!」

 

のんきにお茶を飲むレイの様子に少し厭きれるユリアスは、さっさと造魔を地上に出すためレイの机の上においてある機械を操作した。

 

 

 

金属の箱から巨大なグロテスクな繭状の細胞塊が出てきた。空気に触れないようにするための塊だったのか、ユリアスは持っていた大鎌でその塊を数回の切れ込みをいれた。

 

その直後に中から見たこともない金属物質でできているような細胞が飛び出し、周囲に強力な電気が走った。パチパチと目にみえた電気は木や草にあたると大きな炎へと変化する。

 

 

 

始めはまともにその姿をみるのも儘ならなかったが、やっと辛うじて人型を保つモノが見えた。今にも襲ってきそうなその憎たらしい形は一歩ずつ歩く度に炎の海を広げさせ、ぎらぎらと光る青い瞳をだんだん近づいてくるロノへと向ける。

 

 

 

A-00(Aゼロ)君の力を見せてもろおうかな、わかってはいると思うがむこうに見える女将校を殺してみてくれ。」

 

レイがティーカップに手を添えて造魔にむかって命令を下す。すると造魔が狂うかのように叫び声をあげてロノにむかい突進する。

 

 

 

「!?…何かしらあの魔物は?こっちに来るわ!貴方たちは元の方向へUターンして少しのところで待機してなさい!…あちらの様子がおかしいから。」

 

「金村少将の援軍ではないのですか!?…了解しました、とにかく我々は先程の休憩地点まで引き返し命令があるまで待機しています!……おい、皆聞いたな、さっさと行くぞ!」

 

 

 

ロノは生き残った兵士たちと別れ今も変わらず前へ進み続ける。ちょうどそのときTHから連絡があった。見るとレン・ラ・リンク大将からだったのでこんな時でもTHをあけた。

 

『おい、ロノ大丈夫か!!今ライドが創った造魔がエリア3内にいるんだ!』

 

「魔物はいたけど…造魔って何?…もしかして向こうから来るのって…まさか、…造魔なのね!?」

 

 

 

もう既に前に赤く燃える草木が目に見えている。

 

「私なら大丈夫だから…気にしないで、レン君。」

 

『…!?まさか、おまえ…。駄目だ引き返すんだ…クッソっとにかく隠れて身を潜めてくれ!ロノ…』

 

ロノは自らTHの通信を切った。

 

 

 

レンは心配したがロノは引き返す気はなく、ましては自分が兵士たちを守ろうと覚悟を決めて炎の海へ自ら突っ込んでゆく。彼女はしっかりと力強く軍刀を握り構えており、その手からは幾分か汗が出ている。

 

 

 

 

 

カネムラがいきなりA-00がロノへ突っ込むのをみて追いかけるように走って炎の海に入ってゆく。不完全な造魔の速さに追いつこうと必死だった。

 

 

 

「おりゃーぁっ!ふざけんなよ!」

 

 

 

ガスッ!!!

 

 

 

奇跡にも追いつき、カネムラが二つの軍刀で斬ろうとするがその造魔の体はビクともしない。逆にその二鞘の軍刀から造魔の体内に溜まる電流がカネムラの体を痛ませた。

 

「うっ…、くっそ、結構シビれるヤツじゃねえか…。」

 

 

 

…ウゥーア、…アゥーッゥウアッ!!!

 

 

 

造魔がカネムラを睨みつけ、感電して動きの鈍い彼を鋼の拳で腹を殴った。カネムラは感電して痺れながらも炎の中にぶっ飛ばされた。見ていられなくなったジェイドが声を張り上げて言う。

 

「金村さーん!もう駄目だよ、造魔なんかに勝てるわけないよ!君が死んじゃうよ!!」

 

「うっせーんだよドちび!おまえはなんも分かっちゃいねえんだよ。姉貴がいたからこの落ちこぼれたブレイズ皇子がこうやってこの国で少尉やってけてんだよ!もともと陛下に殺されるはずだったんだ、死んだってどーってことねえんだよ!姉貴さえこの場を生きていてくりゃ!!」

 

 

 

エルベスとラディスは口にはしなかった。自分には到底真似できるような次元じゃなかった。

 

 

 

ユリアスはカネムラの行動に関心して眺めているがレイが厄介そうに見ている。A-00のこの地に立っていられる時間が短い、こんなんで任務一つを成功できなかったらこちらの骨折り損だ。

 

A-00そいつは放っておけ、時間が限られている。余裕ができたらにしろ、まずは女性だよ!」

 

 

 

「んじゃ、余計に相手してもらいたいもんだな。このクソ悪魔め!」

 

カネムラは炎の中から立ち上がり軍刀を二つ握り締めて電光石火で駆けてきて造魔の両目をぶっ刺した。彼の体は電気でビリビリ音を鳴らし火がついていても怯みもしない。背に掛けていた改造ロケットランチャーを持ち造魔に密着するように構えた。

 

「いくらなんでもこんな近距離じゃ無理だろう?より危険な破壊力に俺が改造したオリジナルランチャーだ。電気に充たされた炎の海ん中でのこんな鋼の塊なんか、楽勝だ。」

 

 

 

「少尉!お止めください。そのままでは貴方も…。」

 

ラディスはやっと口を開いたが、カネムラが止めれるなど考えてはいなかった、しかし言う以外に自分には何もできなかった。もうこれ以上は止めようとしなかった、それはカネムラの気持ちをよく理解している上の判断でもあった。

 

 

 

「フフ…。あんな他愛無い武器で造魔が?無理だね、本当に奴はアホだねユリアス。」

 

「…いやレイ、それはどうかな。まだわからないぜ。」

 

「?」

 

 

 

――…ッバーーーッンッ…――

 

 

 

造魔とカネムラを中心に大きな爆発と爆音で満たされる。そのせいか大きな風が放射線状に解き放たれた。ひどい風力や砂や灰で目を塞ぎ飛ばされぬように、皆地にしがみついたり足を固定したりした。

 

だがジェイドだけはあの光景を一人見ていた。

 

 

 

 

 

カネムラの意識はダークナイツからどこか遠い異世界へ離れようとしていた。

 

 

 

…もうどっちが上でどっちが右なんかなんてわからねえ。いや、もうそんなんどーでもいいかもしれない。

 

ただ真っ白な精神的異空間にいるとは思う。

 

 

 

(ほーう、コレが前と後ってヤツか。全く面白いもんだな。)

 

 

 

…って、おまえ誰だ?ここは俺の精神世界じゃねえのか…。

 

 

 

(ヒトに無理やり生まれてこさせられたときの名前はなかったな。ただお前のその邪悪で純粋な心に興味を持ったのだ。戦うことでのみ相手の心を知るものだ。)

 

 

 

…!?造魔なのか?

 

 

 

(俺はまだ正確な造魔になっていなかった。俺はある魔王の魂である。ライドに封じ込まれたが、器は俺には小さすぎた。今や器の力を俺の力はやっと別々なモノとなった。黄帝の封印により俺の真の器は手に入れんがこれに懲りてしばらくは魂だけが幸せだな。このA-00という造魔の器の力をお前の力として使ってもらいたい、お前本体がもてばだがな。)

 

 

 

…魔王!?お前はいったいなんなんだ!前世の名前を教えろ。

 

 

 

(ヒトに前世などといわれるなど俺も堕ちたものだな。魔王と括られてはいるが元は神。戦争と残酷、水と霧を司る荒ぶる邪神、蚩尤(シュウ)。さあ、俺と来い俺には小さいがお前には十分な器だ、くれてやる。…これで俺は自由だ。)

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

カネムラの体と造魔が溶け合っているようにジェイドは見えたが、これは爆発による高熱で溶けたわけではなかった。だんだん一つとなったその身は重くなり強く地に叩きつけられボロボロになっていた。

 

 

 

「カネムラさーん!!」

 

ジェイドは頬に涙をつたわせながら叫んだ。

 

「ここまでくると、狂ってるぜあいつ…くっそ!」

 

エルベスは目つぶりを顔をそらして言った。ラディスは本当にこれでよかったのか、自分に問いただしているように下をむく。

 

 

 

「なんか呆気な…。金村だっけ、いい相手になりそうだったのにな…。」

 

ユリアスが少しもの寂しくボソッと言う。そのときレイのTHにライド国軍の軍部から連絡があった。相手はブレイト=マナール准将だった。

 

 

 

「ユリアス退くぞ、上から観測していたらしいな、電流に炎にというのも多少あるが時間的にタイムリミットだったってことだよ。時間が時間で細胞が分解しやすくなっていてそこにロケットランチャーで土留め刺されたって具合だね。大爆発は無理やり細胞が分離するときの莫大な放射性エネルギーが一気に放出されたからでロケットランチャーじゃあそこまでの破壊力はあり得ない。」

 

「ふーん、なんだアイツの一発がだと…。でもアイツは面白かったなー、だから王子は返してやんよ。」

 

 

 

ジェイドは今にも恐怖で泣きそうにエルベスに抱きついた。しばらく二人は離れず、エルベスはもう大丈夫だからと慰める。

 

 

 

「今回は僕らの負けだ、少将は諦める。だけど王子様いつか君の命をとるかもね、そのときまでまた…。まあ、健闘を祈るよ。」

 

王子と従者を少しだけ羨ましそうな表情でみるものの、レイは任務のことを言った。そしてユリアスが鎌にまじないをすると小さく縮み、いくつかの鍵がついた紐にそれをつけた。そして鍵の一つを取り外し、再びネックレスのように首につけた。

 

「じゃーな、ドちび王子君。」

 

ユリアスは少し彼らに興味を持ったらしくそんな風にジェイドを呼んだ。鍵を持つ手を前にすると突然扉が出てきて、鍵を横にしノブに手をかけ、ライド大帝国に繋がるのだろうか、『世界扉』を開けた。

 

 

 

そして二人の異世界者はライドへ消えた。

 

それとほぼ同時にダークナイツからライド帝国全軍が撤退した。

 

 

 

「エルベス!」

 

ロノがエルベス・ジェイドのいるほうへ走って近づいて来る。ラディスも合わせて、三人はロノの声が聞こえる方角を向いた。

 

「何かすごい爆発だった気がするんだけど、しっかりと理由を説明できる?造魔ってどうなったの、あれって造魔よね?もしかして倒した!?」

 

「ん…ま、まぁ、倒したは倒したんだよな。……カネムラ。」

 

「…そうよね、あのこどうしたの?エリーと一緒にいたように見えたんだけど。アリステで任務任されているのにラディスと二人で来たんでしょう?今回有難かったけど一応注意しておきたいのに、もう!またどこか行ったのね!!」

 

 

 

するとラディスがやっと口を開いた。

 

「すみません、カヴィレント少将。」

 

「許すかどうかはカネムラを呼んでからよ。おそらくレン君がここに来るわ、私は生存が確認された兵を連れてくるからこのあたりにまだ息のある者がいたら保護をしなさい、話はその後ね。…でも皆そんなに静かでどうしたの?いつでもどこでもバカみたいにはしゃいでるのに。」

 

「…少将、実は、…少尉が……。」

 

 

 

ラディスが話す前に大きな音が空こら下りてくる。上を見上げると空軍総本部の空母が着陸しようとしていた。地に触れたその船からは陸軍大将レンと空軍大将ジェフ、国王グリフと従者ロンが何人かの兵士を連れて降りてくる。

 

グリフは息子の安否を確認すると走って寄ってきた。そしてジェイド王子を力強く抱きしめた。

 

「合いたかったぞ、ジェイド!」

 

「ち、父上…苦しいです。」

 

ロンが困ったように言う。

 

「いっや~、それがね、エルベスの暗示が溶けちゃったんだ。…一人で俺がスッゴク怒られたよ。」

 

グリフは、ジェイド・エルベス・問題のロノの姿を見てひとまず安心した。

 

「取り合えず全員無事な。後は次に備えなくてはいかん。」

 

 

 

「…?ラディス…・ロイズ…だよな、…ロノんちの?…おまえは確か一時的だがここの担当の兵ではないのでは?…っまさかカネムラにつかわれたのか!?あいつめ一体どんだけ勝手なんだ!」

 

 レンの発言にグリフが答える

 

「全くだな、いくらカネムラといっても他の兵士を…。…というより奴はここに来ていたのか…だが今回は正しかった、ソコは褒めないとな。」

 

レンは口止めされているカネムラの部下に彼の行動について全て吐き出させたらしく、内容を軽く説明した。

 

 

 

「いえ、リンク大将、自分が自ずからこのような違反を冒しました。…それに少将が造魔に止めをさしたのです。」

 

ジェフがラディスの言葉に対して反応を示した。そして細い目でレンを見ていう。

 

「金村君はやはりすごい人材なんだね、おかげで大切なヒトの命は救われたんだ。ね、レン君?」

 

「た、大切なヒト…。…礼を言わなくては、か…。」

 

レンは顔を赤くしてチラッとロノを一度見てから、辺りを見回した。しかしカネムラの姿は見えない。

 

 

 

「どんなに足掻いても身近のヒトの死は避けられないんだよ…。」

 

ロンが急に重い話をした。周りの者は皆沈黙し、その言葉の意味を探した。ロンは何かを自分のTHから取り出してルーシーを呼んで炎の奥へ行った。

 

 

 

レンは、まさか、という風にはっとした表情になった。ラディスは決心したように言う。

 

「カネムラ・キャビゾン少尉は造魔と共に他の世界へかえりなさいました。」

 

 

 

――…………――

 

これまでにない静けさが走った。最初に動きを見せたのはロノだった。

 

「ほんと、カネムラは自己中なんだから!」

 

彼女は急にわーっと言わんばかりにしゃがみ込み泣き出してしまった。

 

「いつも私の知らないところにいるくせに、いつも私のことばっか気にして!」

 

レンがそっとロノの肩に手をさえて同じように屈んだ。ロノは一生懸命涙を拭取ろうとするが目がまだ潤っている。

 

「泣いても何にもあのこのためにならないわね、ごめんレンくん。ありがと…。」

 

少しだけロノはレンに笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

そのような暗い空気の中、科学者であるロンとルーシーはカネムラと思われる焼け焦げた塊に近づく。まだ炎が燃えているが心配はないほどで細胞が完全に破壊されていないことを確認しその塊は造魔と溶け込み一体化しているようだった。

 

「ルーシー、君の人口細胞が始めて役に立つ時だ。この実験に協力してくれるよね?」

 

「ええ、もちろんよ。なんか神の領域になりそうだけど試す価値があるからね。」

 

二人はその細胞塊を少量回収した。ロンはその回収物をTHに保存し皆のもとへルーシーと共に戻る。

 

 

 

 

 

抱きつかれたあと、グリフから離れたジェイドはどこか遠くを眺めていた。果てしなく遠くを…。

 

グリフはその様子に気付いていたがあえて触れず機内へこの事件の後始末のため、仕事をしに戻った。しかしエルベスは見て見ぬフリはできず、ジェイドに近づいた。

 

 

 

――いつも僕は足手まといになるんだ――

 

 

 

…大切なヒトのために大切なヒトを失う…。こんなの初めてだ。こんなに身近にいたヒトが…ついさっきのコトなんだよ!?…目の前で…。

 

 

 

「なーにさっきっから下向いてんの、ジェイド?」

 

突然エルベスがジェイドの肩を軽くポンっとたたく。ジェイドはハッとさせられるように前を上げた。

 

「別にジェイドが悪いわけじゃないじゃんかよ!…これからこういうの起こるかもしれない。だけど、ここにいるみんなのためにも、…明るく前向いていきていこうぜ、な?」

 

エルベスの温かい笑みはジェイドの心の中を明るくさせた。自然と、悲しみとはまた違う涙が瞳を濡らす。体が勝手にエルベスのほうに動いてしまう。

 

「エ、エルベス~っ…。」

 

おいおいきったねぇ、俺の服濡らすなよ、と笑って抱きしめてくれるエルベスにしっかりハグをしかえすジェイドは、とっても今、皮肉にも幸せな気分だった。

 

 

 

ジェイドはエルベスの顔を見ずにまだしがみ付きながら言う。

 

 

 

「君だけは僕のそばにずーっといて!そしたら、…。…僕ももっと頑張れるから…。」