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主な登場人物

  • ジェイド・ウェゾ・ドラコ
  • エルベス・グリフィンド
  • カネムラ・キャビゾン
  • グリフ・ウィズ・ドラコ
  • ロン・グリフィンド
  • レン・ラ・リンク
  • ロノ・カヴィレント

第一話:日常

 

これから知ることになるものは、一冊の本の数行分にも満たない。

ほんの一部であるその物語は、古の時代から現代にまで伝え続けられている、常夜の国の神話である。

 

世界というものは、大きく分けて6つ存在する。

神界、天界、冥界、魔界、奈落界、そして地上界。

 

地上界には大地である地母神ガイア上の世界を意味し、カオス(混沌)界を主にする。ほかにカオスの中で成長し続ける子コスモス(宇宙)、ガイアとカオスの間にいるウラノス(大空)という世界がある。

それらの空間に加えて時間(クロネス)があり、これは流れ方が違うものの全世界に共通して存在し、その全てが時の柱で繋がっている。

 

私たちはコスモスという空間に生きるモノ。私が語ろうとする話は真の大地、大空が平らに存在する所のものである。

常夜の国はガイア上の空間ウラノスに存在している。

 

 

 

ここはウラノスにある闇や陰の属性の空間によって光を遮られている世界『ダークナイツ・ムーン』。この名は主国ダークナイツに由来。ムーン(月、セレナ)は光の届かないこの世界に対する皮肉や矛盾を表し、そして希望の象徴。

話は、ダークナイツのランパシルス州、首都アリステをはじめとして語らしてもらう。

 

 

今もなお、光の届かないこの世は人口太陽光に照らされている。国王の住居クリスタルパレスに隣接している王族の宮殿がある。そこの大広間には何故か高貴な衣服がみっともなく散乱していた。

 

「王子殿下がお洋服を裏返しに置かれていきましたようなんです…。」

一人の召使いが困った表情を浮かべながら近くに立つ公爵に報告した。ロン・グリフィンド公爵は優しい口調でそれに応える。

「ほこりが付着しないように裏にしてるんじゃないかい?ほら、そうすれば…でも床にこんな状態である必要性がないなぁ…。」

「確か殿下が先程、このお洋服を着ておりました。今現在、一体何を着ていらっしゃるのでしょうね。」

ロンはなんとなく気付いたらしく気まずそうな顔をした。

「それってさぁ…。あぁ、そういう意味かぁ。」

ロンは片手で頭をおさえながら困ったように言う。

「…捜してくるよ。」

 

アリステの中央、セントラルランドと呼ばれる区域に、この世最大の集合建造物『エピドートモール』が築かれている。その一部分である『ビスマス王立博物館』にここ一週間のみ、偉大なる宝玉『リフィグタイト』という魔石が展示されている。リフィグタイトは、国軍セイントナイツが異世界で入手した、魔石の中でも威力が大きい鉱物であり、展示期間終了後は国王の下へいく。

 

「うーんっ!やっぱ博物館はイイよね、エルベス君?」

「え、あぁ。そ、そーだな。あっはは…。」

博物館内で違和感を覚えさせられるような会話がきこえる。

「…ちょっと、エルベス。なにその言葉は!? もっとナチュラルに答えてよ。バレるよ、僕たち!」

少年が小声で青年エルベスをった。叱られた青年はとてもばつが悪そうだった。

「古代の獣人(ヒト)たちにでも会ってきたかのようだね。」

「あ、…うん。そうだなー。」

エルベスは相変わらずワザとらしかったが、一生懸命合わせている。しかし、もう少しで出入口を通過できるんだとホッとしている表情をうっすらと見せていた。

二人は緊張しながらも受付を通過した。

「ご入館まことに有難うございました。」

「こちらこそ☆」

少年はとても明るく元気に言った。エルベスの表情がはっきりと良くなってきた。

 

ウィーン、―――…ウィーン、カシャン

――自動開閉ドアが二人を通した――

 

バタバタ バタッ

――警備員が館内を慌ただしく足音をたてている――

驚いた受付の女性が彼らに訊ねた。話によると、何者かが国宝リフィグタイトを盗んだという。これを耳にした館長は冷汗をかいていた。

警察らは館長をなだめた。今後国民にはこの事件を非公表にし、調査を続けることに決めた。

「しっかり取り調べろ。魔石が盗まれたことを知れば、あぁ、陛下はなんとおっしゃるか…。」

高位の警察官はため息をした。

 

「わーい!見てよ、見て見て!! エ・ル・ベ・ス!! これ本物なんだよ!? 魔石だよ?綺麗でしょ!」

二人は、エピドートモールにある椅子に座っている。

「おい!駄目だ、駄目!!

「?なんで!?

「いいから早く隠して!

「う、うん…。」

よく理解できず戸惑いながら、少年は自分のかばんの中に魔石を入れた。エルベスはかなり焦ったようだ。

「…バレたらヤバいんだろ!?

 

少年の名はジェイド。この国の王子だが、次世代の国王としては責任力が薄い。そしてエルベスは彼の従者。ロン公爵の息子だが、貴公子にしては華やかさが足りない。

 

ジェイドは返事をしなかったが、少しは反省しているようだった。

不安を隠せずにエルベスは深いため息をした。

「…なんか罪った気がするんだけど、俺だけか?」

ジェイドが彼を元気付けるように言う。

「大丈夫だよ。これは僕の提案だし、はじめからもらう予定のモノでしょ?」

「そうだケドさぁ。…ってか提案してなくても同罪じゃね?ましては従者の責任だとか言われるんじゃ…。お前の父上ならそう言うんじゃね!?

「僕が絶対、一人で済むようにするよ?」

「正直期待できない。」

 

――「……」しばらく沈黙がはしる…。――

 

そのうちエルベスが急に言い出す。

「なぁ、THで俺の服のデータ保存していいか?

「はっ?なにゆえ~っ!?

エルベスが突然不安そうな表情を見せ、

「……あ~っ。穴があったら隠れたい!尻見えてもいいから頭だけは隠したいよぉ!!

泣かれている側はよく理解できないが、彼本人は今にも泣きそうである。ジェイドは面倒臭そうにそれを許可した。

「わっかたよ。だから泣かないでよ?

そして二人はエピドートモールの角へ向かった。ジェイドは鞄から『TH』という携帯機器を取り出した。THというものは、研究者でもあるロン公爵が発明した機械のひとつで、物質をデータとして機器内に取り込み保存することができる、地球でいう、いわば物の収納が可能になったPCとか携帯通話機(通称:ケータイ)とかいうものである。

 

―――衣類のデータ保存が完了しました。―――

 

電子音で話すTHのモニターには、今エルベスが着ている服が表示されている。

それとほぼ同時に「セヴントランスフォーメイション」とエルベスが言い、彼の姿が小さな黄色い龍のような姿になった。

先程彼が着ていた服は確かにTHの中に入り、物質化可能なデータとして正式に保存されていた。

「はーい!俺の第二形態『獣人』。キュートでキュートでキュートなエルちゃんどぇ~っす!!

「ウザス、エルベス!!!

ジェイドが睨み付けて、そして鋭く、

「てか、キュートしか言ってないよね。」

「…まぁ、そんな風に言うなよ。悲しくなるだろ!?俺が……。」

「勝手に悲しんで、泣いて、そして死ねばいい。」

「……なんかごめん。」

 

二人はエピドートモール内の大通りに出ようとした。しかし、そこには一人の警察官が立っていた。どうやら例の犯人を捜しているようだった。

「あ、もう警察いるね!」

ジェイドが普通な顔で大通りに出ようとしているが、エルベスが必死にそれを阻止した。

「出て行っちゃ駄目だ!!

「本当に捕まる?」

「たぶん……。」

ジェイドはうっそだーっと言わんばかりに大通りに一歩踏み出した。

 

「だいたい犯人確定していないのに僕らって思うわけないよ。」

「でも一応服装変えていこうぜ。いつもの貴族服でも着てりゃ大丈夫だ。」

「わかった。それなら家で入れておいた服をだしてよ。」

エルベスはOKと返事をしてからTHを操作し始めた。そして最後に点灯している部分を押した。ジェイドの着ていた服が光を帯びながらデータ化して機械の中に吸い込まれていって、その代わりにその機体に保存してあった服がその光の中から姿を現し出した。

 

「ふふ…。もうこれで安心だね!」

ジェイドはほっとした後に、くるりと体を回転させて喜んでいた。

「…って、何これ!?何これ?何これ!!…僕のはどこなの!?

自分がフリッフリなゴスロリを着ていることに気付き驚いている。

「これ、確か…。父上が僕にくれたものだよ。一度も今まで来たことは無かったのに…。」

「んなもん知らないよ。おまえのサイズはこれだけだよ。もしかして保存間違えか?」

「あぁ。あの時やらなきゃ良かったよ。もう、自分でやらない!!

 

突然後ろから、誰か、知らない声がゴスロリの少年に声をかける。

「ね、ねぇ君……」

ジェイドがハッとびっくりして後ろを振り返った。もうその時には彼の目の前まで警察官が近づいてきていた。

「う…。こっち来る。バレたのかな!?

慌てるジェイドに構うことなく、その警察官は一歩一歩進む。

 

「その服似合うねぇ。好きだよぉ、小さくて可愛い娘・・・。」

と警察官は急に妙なことを言った。

 

(この人ロリコン!?

ジェイドとエルベスは心の中で秘かに引いた。加えて言うと、男であるジェイドはそんなことを言われて、かなりショックを受けた。

周りにいた大勢の人も警察官の言葉を耳にして不規則な歩みの軌道を停止させた。

 

(ほら、他の人だって引いてるよ!だからこっち、ずーっと見ないでよ!!!)と王子の心は叫んでいた。

 

 

「おい!!そこ、退け…。」

どこからか声がした。ジェイド達は少しびくっとした。ある二人の男性がこちらにやって来たのだった。

「地位的に言うと、憲兵の方が上ですよね?私達を優先させてもらいますよ。このクズヤロウ。」

さっきの声の主とは別の者がすまし顔で言ってきた。どうやら見た目以上に性格が悪そうだ。

なんで憲兵がとエルベスが焦るように質問すると、はじめに口を出してきた型破りな憲兵がそれに答えた。

「俺だってすっごく上の奴らに聞きてぇもんだぁ。警察で犯人が見つかんねぇなら、武器突き付けてまでやらなきゃいけねぇモノをなぁ!!

面倒なことを押し付けられたような表情をしていた。もう一人の付き添いの憲兵が馬鹿にするように言う。

「スクア先輩、そこまで一般人の分際に言ったところで仕方がないですよ?」

(さっきからこの人、なんかなにげに人を見下してるよ…。―いや、なにげどころじゃないけど―)ジェイドとエルベスはこう思った。

「おう、それもそうだなぁ、ラズ。」憲兵スクアは後輩に馬鹿にされていることに気付かない、KYだった。「とにかく、怪しそうな奴はぁっと…。」

スクアとラズは辺りを見渡す。と突然店から目つきの悪い赤毛の青年が出てきた。その青年は少し大きめの怪しそうな袋を手に提げていた。

 

「よぉーっし!!これで万事解決だ。ラズ、戻るぞ。」

「本当に良かったですね、自ら怪しい人ですと言っているような人で。全く信じられませんよ、こんな先輩でも捕らえることができるなんて。」

「ちょ、おい待てよ!俺が一体何したって言うんだよ!!離せ!!!

捕らわれた青年はとても機嫌が悪くて怒っていたのだが、二人の憲兵は全くのスルー。

ジェイドがほっと一息つくように言う。

「良かったよ、怪しい人がいて。でも、なんかあの人見たことがあるような…。だけど僕は気にしない。自分が逃げ切れるまでは!!

「おい、ジェイド。あいつ金村じゃね!?

「あー、それはいいの。気にしないの。そこは何事もなかったかのようにこの場から……ランナウェーイッ!!

ジェイドはエルベスの手を引っ張っていきエピドートモールを急いで出た。エルベスはとても気まずそうだったがついていきざるを得なかった。

 

あの紅毛碧眼の男性は国軍聖騎士団体『セイントナイツ』の少尉だった…。

 

「ふーっ。おつかいの後はなんだかスッキリするね!ね!?

ジェイドは無事宮殿に帰れたのでとても安心していた。しかしエルベスはばれるのではないかと不安で仕方なかった。

「スッキリか…。ましてはモヤモヤするけどな。」

 

「エルベス、ジェイド君!一体君達はどこに行ってたんだよ。」

ロンが心配そうに二人の前に歩み寄ってきた。

「げっ、親父!?

「親父って何なの!!…とにかく説明はしてもらうからね。」

「いやぁ、あのねロンさん。少しエルベスと二人で街に…。」

 

ポロッ…

 

ジェイドの鞄の中から綺麗な石が一つ床へ転がった。魔石リフィグタイトが…。

(あ……。)

二人は公爵の前に無言で立ち続けた。その沈黙の時間がとても重々しく感じられた。

 

 

クリスタルパレス宮殿内

 

「陛下、ジェイド殿下とエルベス様をお連れいたしました。」

兵士の一人が国王グリフに内容を伝えた後他の兵士たちがエルベスと共に王子をその部屋に連れて来たのだが、王子はまるで引きずられるように…いや、思いっきり引きずられていた。

「あ…うぅ。」

ジェイドは無理やり父親の目の前に連れてこられた。

「……。」

国王グリフは無言の威圧とやらを感じさせる。王子とその従者はあまりにも恐怖のため、普通に立つことも困難だった。

 

ザッッッッッ

 

急に二人は額を床につけ、土下座をした。

「す、すみませんでした、父上!つい見たくなって…そ、それから欲しくなって盗んでしまいました!!

「父上、本当にすみませんでしたっ!護衛すべき俺がジェイドの悪行を止めることもできず…騎士失格です!!

「エルベス!!私が貴様に父上などと言われる筋合いはない!!!

グリフはエルベスを睨みつける。エルベスの発言がただでさえ機嫌の悪いグリフをさらに怒らせてしまった。

 

「はぁ。…こんなに良いお父さんがいるのにね。グリフのことは父上で実の親である俺には親父!?なにそれ、意味不明なんだけど?…」

 

………

 

ロンのあまりにも怖い反応にしばらく誰も話すことができずにいたが、気まずそうにもグリフが話を戻すため言い始める。

「ジェイド、盗みも確かに悪いことだ。しかし…。」

「はい?」

突然この時、ヤバっと言うようにエルベスが後方に方向転換し、進み始めた。

「なぜ、おまえはパパに内緒で外出をしたのだ!?もう、すっごく心配したのだぞ!?それに寂しくてな寂しくてな…。」

半泣き状態で王が息子を抱きしめる。しかし、抱きしめられている王子の表情は決して幸せそうではなかった。

「ち、父上、苦しいです…。」

 

今もなお、エルベスは遠ざかって行く。

 

「もう、私はわかっている。一番悪いのはおまえの責任者である…。」

エルベスが走り出したのと同時に、グリフが玉座から立ち上がり怒鳴りつけた。

「エルベス!!貴様のせいだっ!!

「ひぃーっ!!だからすみませんって父上~!!

グリフは激怒しながらエルベスを指差した。

「奴を捕らえろ!!

そこにいた兵士たちが一斉にエルベスを襲う。

「ほら、一人で済むって言ったじゃん。エルベス一人でねw。」

ジェイドが微笑みながら小声で言う。

とりあえずエルベスをもとの人型の龍人に戻させるために兵士たちは彼のTHから衣服を取り出した。

「おい、エッチ!!今ここで戻ったら……いやぁっ!恥ずかしっ!!

エルベスはかなり嫌がっているが兵士たちも譲らない。ロンは温かい目で見ている。

エルベスと兵士たちのいざこざが続いているのでグリフが立ち上がり、エルベスを無理やり力ずくでもとの姿に戻させ衣服を着させた。

 

「……」

エルベスが犯されたような瞳でグリフを見上げる。

「なぜそんな目で私を見る?

グリフが真剣な顔で彼に問う。エルベスが赤くなって言った。

「なんでって…だってさっき、全裸…何よりその後に服を着せてくれて…。」

「貴様消えろ!!

「ひぃっ!!

グリフは自分の腰に提げていた剣をとり、刃をエルベスの首にあてる。

「貴様自身に着替えを任せればその隙に逃げるだろう?」

エルベスは恐怖のあまり何も言えなかった。今にも彼は斬られそうだ。

「ちょっと、グリフ。一応俺の子なんだから。」

ロンが焦ってグリフを説得しようとする。

 

――エルベスの騒動の件を解決中。これはプライベートなことがあまりにも多すぎるため少々お待ちください。――

 

「まぁ、なにより他人に迷惑をかけた。そこを反省しなさい、ジェイド。」

「はい、父上。本当にすみませんでした。」

 

しばらくして部屋に憲兵のスクアとラズが入ってきた。そしてラズがこういった。

「国王陛下、命令通りに犯人を連れて来ました。」

ジェイドを謝らせるためにグリフが呼んだらしい。グリフは頷きジェイドと顔を合わせ、そしてその者を入れろと命令をした。

「ちょ、離せ!クソ猫が!!

「あ?クソ猫とは誰のことだぁ!?この赤毛ヤロー!!

「バカ赤毛って言うな、それ人種差別用語だろ。一応気にしてんだよ!俺はカネムラ・キャビゾン少尉だ!オマエらなんかよりお偉いさんなんだよバーカっ!!

グリフ、ロン、ジェイド、エルベスそして兵士たちが厭きれてしまい口を開けている。

「ん?あ、エルベス先輩にドちび王子、どーも。」

二人は口を並べて返事をした。そしてカネムラ、スクア、ラズに犯人は別にいると伝える。

 

「ほら言っただろ。俺は陛下の魔石は決して盗まない。それに現に今そこにあるじゃないか。さっき俺が持っていた袋の中身も違っただろ!?

中身はあれはあれで危ないよなと二人の憲兵は思ったが決してそんなことは言わなかった。

「やはり、カネムラには謝る必要はない、ジェイド。」

「はい、父上!

 

突然扉が勢いよく開いた。

「陛下、失礼します。」

国軍セイントナイツの陸軍大将レン・ラ・リンクが現れた。その後ろには女性将校ロノ・カヴィレント少将もいる。

「レン君!?それにロノちゃんまで!」

ロンが少し困ったように言った。ロノはそれに構わず怒りながらカネムラに近づく。

「ちょっとカネムラ、あんた一体何やってんのよ!王様の宝石盗むなんて最悪よ!?宝石とかお金とか好きなのは知ってたけど、まさかそこまで…。」

「まったくだ、軍人の名が廃る!!

レンも続いて言い出すので、ロンがレンをこちらに呼んで説明を始めた。

「それでは、金村は?」

「彼は無実、大丈夫だよ。」

レンがロノにカネムラは何も犯していないことを教えた。

「……え?」

ロノがきょとんとしている。

「怒っている姉貴には何も言い返せねぇぜ。」

少々口が悪いカネムラも彼女の前では頭が上がらないらしい。

「ごめんね、てっきり今から裁判所へと行くのだと…。」

「え?いや…別に。」

 

レンが顔を赤くして憲兵らから受け取ったカネムラの袋を持ってきた。

「金村、事件があった時に没収されたものだろ?早く受け取れ。」

「カネムラです、大将さん。でもまぁ、どーも。」

「……。」

レンは袋を渡した後もまだ赤い。

「…大将さんよぉ。もしかして中身見ました!?

「う…ま、まぁ。」

 

「ん?何それ。」

ロノが袋に手を伸ばす。

「だめっ!!!」とカネムラとレンが叫んだ。ロノは仕方なく手を袋から遠ざけた。

カネムラがレンの耳元で囁いた。

「もしこれが大将と少将だったら…。」

ぐはっ!!!

突然レンの鼻から血が出てきた!!

「大丈夫ですか!?リンク大将!!

ロノは叫んだが今のレンには答える余裕がない。カネムラはそれを見てにやけている。グリフやロンはやれやれという風だったが、ジェイドとエルベスは面白そうに見ていた。

 

 

ジェイドは夕食のため自分の館へ戻ろうとしていた。エルベスそれにカネムラも一緒だった。ちょうど掃除し終えた一人の召使い(メイドさん)が話しかけてきた。

「あ、ジェイド様。お帰りになっていたのですか。」

「あぁ、うん、まあね。ただいま。」

 

「なあ、先輩。犯人って本当は誰なんだ?陛下はそこまで詳しくは教えてくれなかったが…。エリー先輩はご存じなんだろう?」

「あー、実はねー…。」

「エルベス!!そんなこと言わなくていいから!金村さんも無実が証明できて良かったじゃない!?

ジェイドが必死になって阻止した。

「でも、結局はエルベスが魔石を保管するんだよね。」

「そりゃな。これでも一応この管理役に任命されてるんだからな!!

ジェイドは話を少しずつずらしていき、エルベスもその流れに乗り自慢している。三人は長い廊下を歩き続けている。何人もの召使いを見かける度に挨拶を返してくる。

「でもその魔石には何があるの?」

「さー。父上に聞いたら?」

エルベスがジェイドの質問に答えるが、ジェイド本人は召使いたちに可愛い可愛いといわれてるように仲良く話をしていた。

「ジェイド、聞いてる?」

そういわれてジェイドはムッとした。どうやらしっかりと聞いていたらしいのだが…。

「父上のことエルベスも父上っていわないでよ!!僕の父上だよ!」

「将来の俺の父上に…。」

「キモい」

まじめにキモいと言われてとてもショックを受けている。そのあとジェイドがゴメンと一言謝った。

「おい、ヒトの話聞けよ…。」

「何だよ、金村!!

エルベスが少し機嫌悪そうに言った。

「で、何ですか?」

ジェイドは覚悟を決めて、早く用件を聞くためにシャキッとしていた。

「ああ、そういえば、あの事件のとき…。王子くらいのちびガキがいてな。」

カネムラが馬鹿にした口調で笑みを浮かべながら言う。

「…そいつが警察官とイチャイチャしてたんだ。妙なもん見ちまったぜ。」

「ちびって言うな!!!

ジェイドはカネムラに向かって怒ったが、カネムラにはその理由がわからない!!

「何勝手に怒ってんだよ王子?ま、きっとその後なんて……。へへ、傑作だぜ!!

 

(誤解だよ、それ……。)

ジェイドは心の中で叫んだ。そして可哀そうに思ったエルベスがかばおうとする。

「それは違うと思うけどなあ。なんていうか、その…。」

エルベスの言葉は別にかばいにもなってなかったが本人は頑張っているようだった。魔石フィリグタイトを片手で何度も上に投げながらうだうだと言っている。ジェイドはふとそれを見て心から疑問に感じた。

 

――それにしても何で魔石なんか集めるんだろ?――

 

説明できずに下を向くエルベスの手から、そう考えてる中でも、フィリグタイトが離れたり近づいたりしている。

 

 

時はダークナイツの世界の1950分頃。クリスタルパレスで国王と公爵がある部屋から外を眺めている。

 

「ねえ、グリフ。」

「ん?何だ、ロン?」

「俺なら聞いてもいいよね!?何でさー、…集めるの?」

グリフはロンの突然の発言に悩まされた。ロンが少し気まずそうに言い足す。

「魔石…のことだよ。」

「……。」

グリフは下のほうを見て少し間を空けて言い出した。

「この世はどこの国も仲の良いことだろう?」

「まあ、同じ世界の中同士の戦争はもうないもんね。」

公爵は国王の問いかけに答えたが、彼にはその魔石との関連性が理解できなかった。

「もともとは救世主の太陽の世界と言われるメシア国とここダークナイツムーンは同じ一つの世界だったと伝えられている。ロン、お前はそのメシア国には興味はないのか?」

「興味ってどうあるっていうのさ?」

「……。それにその世界には魔石も数多くあるらしいが、何よりも魔石以上に強力な未知なる力を宿す少女が存在するらしい。」

グリフが笑みを浮かべると、少し心配したようにロンが彼を見つめる。グリフはそれに気が付きもしないで話を続ける。

「魔石や偉大な力で他の世界を我が物とすれば…。」

「え?ちょっ、グリフ!?

「しかしそれらの存在に気付いている世界の君主共も決して少なくはない。たとえ全てのそれらの力を手に入れなくとも、直接それらを使っての異世界支配ができなくとも、…異世界を手に入れるキッカケには確実になる。」

「でもダークナイツにはそんなに多くの魔石は存在しない。…まさか他の世界のものも集める気じゃ…!?

「私は世界の戦いに勝たねばならない。」

グリフは真剣な眼差しでロンの顔を見た。ロンは少し動揺しているようだったが、そのうち国王を温かく見守ることを決意した。

 

 

「あー。もう夜になるよ。金村さん帰っちゃったし…。」

人工太陽光の消灯時間が迫る中、王子が退屈そうに言った。

「まーいいじゃん?もうすぐ俺たち、かわい娘ちゃんたちのディナーだぜ?」

「いや、彼女たちは僕の召使いだからね、エルベス君?」

ジェイドは少し怒ったように言った。

 

 

「やるしかないんだよね?これから先何があっても…。」

公爵は国王に優しく問う。国王は自分を受け止めてくれた公爵に感謝するように微笑んだ。

「ああ。天の光が差し込まない我がこの世のためには…。」

 

 

カチャッ……―――

2000分。針がこの時を示したと同時に、周りは本来の性質を見せ真っ黒となる。ただ少しずつ街の明かりが灯し始めるが…。

 

―――今、人口太陽光の光が消えた。―――