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第一話 冥界の使者

 

 蚩尤的逸話(蚩尤の逸話)第一話『冥界の使者』

 

 

 

 

資源を収集・消費し、争乱・統一の波をうねらせて被害加害を繰り返してはいたが、全ての人間が地上で暮らしていた。

新生物が発見され、世界中に避難勧告が出るまでは。

異常気象による狂気的進化や放射能による突然変異だという者もいれば、地球の環境変化に乗じて姿を現す神魔の存在だという者もいた。

 

 

大和の天津神の長である太陽の女神天照大御神が、中華域の最高神である中央の天帝黄帝の許に行き、大和域の神々の案を示し協力を求めていた。

「黄帝、どうでしょう。この件、予想が真であるならば賭けてみても無意味ではないはず。」

「奴をこの状況の地球に放つのは危険。だが確かに、本当に真ならやる価値が無くはないが…。」

この案のリスクに警戒し、気が進まない態度の黄帝に構うことなく、天照は笑顔で契りの儀を始めた。

「では契りましょう。」

中華域を渡ってオリエンタルコロニー群まで避難しようとしている大和域の民の一人の少女を天界から見る。この少女は先にある封印石碑に近づいていた。天照が契りの儀をそのまま続ける。

「少女が邪神の封印を一つでも解く力を有するならば、即その神は少女の魂を共有し、現世にその身を授けると約する。」

 

 

塚に触れた少女の力に反応し、中華域の封印されていた邪神がヒト(猿型獣人)の姿で現れた。混沌界カオス内に属する宇宙界コスモスのとある銀河系に、この太陽系第三惑星の地球に権現したのだった。天界から黄帝の声がその霊魂に話しかける。

「……という訳だ。貴様の今後の行動をしかと見ている。これは神々の契り、この娘の魂と共に生きていけ邪神蚩尤よ。」

訳も分からず、その邪神は混乱し、自分の目で見る全てを疑った。自分の生死さえ分からなくなっていた。ただ、いつもと違って、体の使い勝手が悪いことを感じていた。

「俺は生きているのか。何故体の動きが鈍い?」

本来の邪神としての姿形も能力も失われ、人間同様の存在と化した己の肉体に余計に焦りを覚え、もう、何が何だか分からなく、身動きすらまともにできない。ようやく、正面の風景を認識出来るくらいになると、そこに封印を解いた少女が驚いたようにじっと自分を凝視しているのに気付く。

「…!?何故ここに人間のガキがいる!」

 

 

 

「世界異聞録『蚩尤的逸話』」

 

 

 

10年後。

人類の最後の希望といえる、巨塔の頂点に設置された空中シェルター群の一つ、オリエンタルコロニー群のアジアン小コロニー。ドーム状のコロニーに群がる街の建造物のうち国連が設けたアジア図書館があり、そこで高等学校程度の年の、紺色ベースなセーラーデザインの服をスカートを着ている少女が、並び聳え立つ本棚とにらめっこしている。

「あ、これかなー。」

少女は中華域の歴史の書籍を手にし、項を探し読み始める。

「中華域の三皇五帝時代。黄帝は先帝の炎帝を打ち天下統一。特に炎帝の子孫蚩尤は強敵であったが、啄鹿の戦いで殺し、その身の復活を恐れ二か所に封印する。蚩尤軍には風伯と雨師がいたが、応龍や魃、指南車・西王母の協力により勝利を治めた。」

少女はため息をつきながら、付近にあった、大和文の今日の新聞が置きっ放しにされている机の上に手をついて座った。

「…って、これだけかー。」

「大和文じゃこれが限界だよね。ただでさえ中華域の本の現存が少ないのに。」

そして彼女は諦めて書籍を片付けその場を後にした。

 

その少女はパソコンに向かって座る男性に声をかける。この男性は紺のシュシュのようなもので朱い髪を束ねており、暗い色合いのYシャツとベストの姿で、PC用眼鏡をつけている。

「やっぱコロニーに持ってこれた本には詳細は載ってないみたい。」

「貴方の方はどう?ってまたインターネットで調べてるの?家でもできるじゃん…。」

彼女は不満そうにパソコンの液晶画面を覗きながら注意する。そこに映る映像はどう見ても調べものではなく、レベル・HPMPなどのメーターや何人かのキャラクターが動いていた。それはどこぞやのオンラインゲームだった。

 

「蚩尤?貴方、何やってたの?」

「あ?邪龍王ファフニール、仲間と狩ってたんだ。で、何?」

 

蚩尤の平気でこのようなことを答えた行為に余計に腹を立て、今まで思っていたことを言った。

「いつもコレだね。家でも筋トレとネトゲばっか!」

「いいや、普通のゲームもフィギュアもプラモ制作もやってるぜ。」

「邪神でしょ!…地上で出会った頃のほうがかっこよかったよ!」

まだ平気な様子で呆れた毎日の行為を坦々と答える蚩尤に少女は言った。これが気に障ったらしく、蚩尤もキレるように怒鳴った。

「うるせえな。それより、一刻も早く地上に降りて残りの封印も解け!」

「だから封印の場所を調べてるんじゃない!」

「降りてからでいい。行きゃあわかんだろ!いい加減に黙れ、茉利華!」

 

「馬鹿なの?前も言ったけど、国連やカヴィヌス教会がコロニーや地上の隣接部を管理してるの!騒ぎ起こすつもり?」

茉利華が馬鹿にするように強行突破したがる蚩尤の意見を否定するが、蚩尤もむちゃくちゃなことを言いだしてきりがない。

「邪魔な奴は片付けりゃいい!」

「俺が力を取り戻せばこの世界の支配なんて楽勝だしな。」

 

茉利華の目つきが変わった。彼女は冷静になって真面目に質問をした。

「で、力戻ってどうするの?まさか世界征服とか言わないよね、ダサいし。」

「まさかって何だよ!」

彼女の言い方が気に入らない感じではあったが、蚩尤も想う野望の全てを語る。

「言うまでもないが、黄帝をはじめ各世界の有権神を殺し全てを統一し、十界の全世界に君臨することだ。」

 

茉利華は少し空しそうに言う。

「で、何がしたいの?」

「!?…で、自分を崇拝させたり叛逆者狩りしたり、いい酒いい女それにサブカル・ゲームを…。」

 

「は、何それ?本気で馬鹿だよね?」

「あ゛?本気で死にてえのか、コラ。っこのクソ女が!」

「いいの?私殺すと貴方も死ぬんじゃないの?」

蚩尤はチッと舌打ちをして茉利華を睨みつける。

「可愛くねえ女だ!力取り戻したらてめえを初めに喰い殺してやる。」

「余計あんたに協力なんてしてやんないわ。最低な男!」

 

「公共施設ではお静かにお願いします!」

図書館の受付の貸出しの役員のお姉さんが、我慢の限界で2人に向かって怒った。その時のお姉さんの顔はいつもと違いとてつもなく恐ろしく奇妙な表情であった。

 

「……」

蚩尤と茉利華は図書館のお姉さんの顔に驚き声が出なかった。そして2人揃って謝る。

「すみません。」

 

「そろそろ帰ろ、蚩尤君。」

…ああ。(PCの電源切ってねえから、ちょい待ち。)

蚩尤も茉利華の言うことを聞き、パソコンの電源を切り始める。あのお姉さんの一喝のおかげなのか、自然と2人の仲は戻っていた。

 

 

 

同小コロニー内の街波の上。風を操り雲に乗る、変わった服装の白髪の少年がいる。少年は中華系のポニーテールで肩のでた白く袖の長い服を着て、スカートのような短い袴状のものを履き、白のニーハイソックスに草履という風貌であった。彼は何かを探すかのように下の街を覗きながら様子を見ていた。

「んー?あいつらどこ行ったん?折角出してやったのになー、もうっ!」

迷惑そうな顔つきで必死に何かを探し続ける。

「閻魔の獄卒を助ければ、昇格の超機会なのに…。」

 

 

 

茉利華が不機嫌そうに蚩尤に言う。

「遅い!早く。」

 

「うるせえな。…(さっきは)悪かったな。」

帰りの準備を焦らされてイラついたりはしたが、先ほどの怒鳴ったり酷いことを言った件を反省しているようだった。しかし、茉利華は不思議そうに、その内容を聞く。

「え、何が?悪いことでもしたの?」

「んな、何でもねえよ!」

謝ろうとした自分が馬鹿だったと思った蚩尤は彼女と目を合わせず言った。

 

その時何かが外から図書館を見つめていたのか、突然大きな音を出してガラスの窓を突き破り侵入してくる。ガラスが割れる音がした瞬間、何か巨人のようなものが現れた。そして、その窓の前の椅子に座りながら、新聞を読んでいるスーツの中年男性がおり、彼が恐怖を感じるよりも早く、その巨体のもつ大きな口が開いた。引きちぎるように首を横にひねって、怪物が男性の頭を噛み砕いていく。すごい音を立てて人を貪り喰う化け物に、近くにいた冷静な茉利華も肝の据わった蚩尤も只突っ立って見ているだけで声も出なかった。この怪物は体は人間よりも大きく、馬の様な顔をしており、地球荒廃後の新種生物であろうか。

 

「だから、公共の場では静かにし…」

先程の図書館の受付のお姉さんがガラスの音や大きな物音と唸り声を聞き、こちらに掛けよてくる。同じように恐怖で奇妙な表情を浮かべて怒り出すものの、この血塗れの空間と人を襲う化け物を見て顔色を変えて、館内に放送する。

「館内に怪物が出現しました!みなさん直ちに館外に非難してください!」

 

怪物が次の獲物を探そうとする前に、蚩尤はこの放送に乗じて茉利華に避難してもらおうとする。

「てめえには死なれちゃ困るからな。茉梨華はここから離れてくれ。」

茉利華は心配で、本当に大丈夫!?というが、蚩尤は平気な顔で言う。

「こんな馬面にてめえの協力は要らねえよ。」

 

蚩尤は馬の頭の巨人に向かって走る。戦闘開始の身構えで敵を襲う。

「こっちは日頃から鍛えて実践してんだ!」

「ゲームの中でな!」

敵の腹に鉄の拳をお見舞いさせ、本棚のほうの遠くへ吹き飛ばせた。

 

「楽勝だぜ。」

馬の巨人を倒し、得意げになる蚩尤に突然何かが襲いかかってきた。その新たな敵を認識する前に宙を浮く妖狐の鎌鼬のような強い風が、蚩尤を襲う物体を攻撃した。その敵は牛の頭をもつ人のようなもので、今の風で角の一つを破損させられた。そして妖狐は蚩尤を眺めている。

「!?」

「度胸はあるけど、人の力で簡単に倒せるものじゃないです。早く逃げてください。」

 

彼は妖狐をみて驚いた。

「狐が喋った!!」

「失礼な!神魔召喚師です。合計3体の神魔の力を感じましたので、早く非難を。」

タブレット状ラムネ菓子の容れ物から出てくる妖狐、管狐の召喚主である長髪ブロンドのゴシックな女性が、少し怒り口調で蚩尤に言った。彼女は、他にライターの精霊ジンとジャム瓶の妖魔アガシオンを引き連れていた。人間の男性としての蚩尤を助けたのであり、人間の力に等しい今のままの蚩尤に神魔の力を感じとっていなかった。蚩尤は神魔召喚師としての彼女の行動に感心したが、彼女の姿を見て、茉利華と比べているようだった。

「いい胸してんな、茉利華も見習ってもらいてえな。」

「貴方、警察にお連れしましょうか?」

当然、彼女は怒った。

 

図書館から避難しようとしている茉利華は、やはり生身の人間の力並みの蚩尤に対し、少し不安を感じていた。

「…シュウ大丈夫かな…。」

 

「今何て言った?蚩尤!?」

「!?君、ここは危ないんだよ!」

変わった服装をした白髪の少年が、茉利華の方へ急に顔を出してきた。最初は人間の少年だと思った茉利華に彼は自分と、蚩尤について話す。風伯という中華域の風神であり、名は飛廉というらしい。茉利華は、今までの調べで彼の存在を理解していたようであった。

「僕は風伯の飛廉。蚩尤と昔組んでたのさ。」

「うん、知ってるよ。でも確か、雨師といつも一緒なんじゃ…。」

「最近屛翳と会ってないから、そんな奴知らないよ。」

飛廉は突然暗い表情になり、中華域の雷神である雨師の屛翳とはなにかあったらしく、今は会っていなかった。茉利華は、自分の発言に反省し、次になんて答えるべきか戸惑っていた。

「何か聞いちゃいけないこと言っちゃったかな…。」

 

「茉梨華、おまえまだここに?早く行こうぜ!」

後から蚩尤が茉利華を追って来た。蚩尤は子供の姿の神魔をみて、これが飛廉だと感じ彼に質問する。

「?飛廉その姿は?」

 

振り返る飛廉と茉利華。飛廉も蚩尤の人間の姿に疑問を抱く。茉梨華が飛廉の子の姿の故を蚩尤に教えた。

「え、これが蚩尤?」

「涿鹿の戦い敗戦後、黄帝によって力を奪われたんだって。かわいそうに。」

 

飛廉が泣きそうな表情で茉利華にくっついている様子をみて、必死に切り離そうとしながら怒鳴る。

「もしかして3体目の神魔ってのはおまえかよ!」

てか茉梨華から離れろ!っという蚩尤に構わず、飛廉はその神魔の件について話し始める。

「?その2体どこにいる?あれ閻王の獄卒の牛頭鬼と馬頭鬼だよ!」

「あいつらが獄卒だと!?」

 

「冥界の使者を人間の女が殺すのは重い罪。やっぱここは俺が倒すべきか…。」

飛廉に教えられたことが本当ならば、先ほどの神魔召喚師の女性に任せるべきじゃなかったと後悔する蚩尤に、茉利華が驚いたように怒る。

「まだ倒してないの?なんで来た?人に任せるなんて最低な男!」

茉利華は一刻も早く、彼女を救いそして敵を確実に片づけるために蚩尤を向かわせたかった。蚩尤もそのつもりでいる。

「シュウ、早く終わらせに行って。今解放してあげるから。」

「ああ、わかった。頼む。」

 

茉利華は目を一度閉じ集中力を高めて強く念じる。そして蚩尤の胸に自分の手を当て、力を彼に注いだ。周囲に光の空間が生まれ二人を包み、強い魔力が蚩尤を満たす。

「我の力を解き放ち、汝の力を蘇らせん。邪神蚩尤、その真の姿を現せ!」

蚩尤は本来の鬼神とも邪神とも言える姿を取り戻していた。その姿は、牛の角に耳、四つの眼、六つの腕…つまり四眼六臂の獣人の姿こそ蚩尤の真の姿であった。

 

 

 

図書館にいる牛頭の怪物と馬頭の魔物は、先ほど蚩尤を助けた神魔召喚師の女性とその3体の仲魔を襲っていた。彼女の神魔たちでは怪物たちには敵わず、巨大な本棚を背にしており既に逃げる間も失っていた。すると彼女は、怪物たちの背後から強い神魔の力を感じ取った。

 

「てめえら獄卒はこの世界に存在しちゃいけねえな?」

その神魔の存在は一瞬で敵に近づき、牛頭の怪物の頭を片手で鋭く握り潰し、そしてほぼ同時に馬頭の魔物の首に鋼の様に硬い拳を当てつけた。神魔召喚師の女性は急の出来事で、しかも一瞬のことだから理解できる時間がなかった。ただ言えることは、強い力の神魔が怪物と闘っている、ということくらいであった。蚩尤の力は本来人間が瞬時に感覚的に捉えられる程度の強さではないということを示している。

「!?」

だが、邪神蚩尤は彼女の驚きや戸惑いについて考えることもなく、ただ目の前の怪物を確実にやることのみを娯楽としていたのか、馬頭の魔物を殴った直後に素早く自分の大剣を大きく振ってそれをその魔物の腹部に深く差し込んだのであった。

 

召喚師の女性が邪神蚩尤に話しかける。彼女はさっき助けた男性と同一人物であると理解し、余計に驚いていた。

「先程の…。貴方は中華域の邪神。どうして生きているのか不思議です。」

「色々事情があんだよ。モチ人間には危害加えねえから安心しな。」

邪神蚩尤もバツが悪そうだったが、自分の容赦ない戦いっぷりに警戒されないように返事をした。

彼女は神魔召喚師として軽い敵視はあったのかもしれないが、邪神といえども助けてくれた蚩尤に感謝の気持ちを言葉にした。

「…ありがとう、ございます。」

 

そのタイミングで茉利華と飛廉が走って二人へ向かってきた。

「待ってってば!距離遠いと姿戻っちゃうよ!?」

蚩尤の力は茉利華が引き出しているので、距離が遠すぎると力が弱まったり使えなくなったりする。しかも、大きな技でもそうだが、距離が遠いと余計に茉利華の魔力と体力を消費してしまうのであった。

 

「!?(え、誰!?)

神魔召喚師の女性は茉利華が邪神に近づいてきたのを見て驚いた。

 

 

茉利華は蚩尤と自分について彼女に大まかに話した。彼女は茉利華に関心をもったようで、名を明かしてから何か手伝ってほしいと頼んだ。

「私はヘレナ・ソーウェル。この邪神は貴女が…かなりの術者ですね。いきなりで申し訳ないですが、ある件に協力してもらえますか。」

「それより閻魔王の獄卒殺しちゃってどうすん!もー!」

折角逃がした怪物たちを倒されてしまったから、飛廉はかなり怒っていた。ヘレナはこの考えの浅い風神に腹が立ち、言い返した。そもそも、閻魔王の手下の神魔ではないということである。

「違います。あれは闘鬼牛頭鬼・馬頭鬼ではなく、カヴィヌスの造魔でしょう。高位の神に媚売る予定でしたか?それよりもこの騒ぎを起こしたことの反省を求めます!破壊神飛廉よ。」

飛廉がきょとんとして、そうなん!?、となった。反省の顔色はないがとりあえず怒りは治まっている模様。茉利華がこのカヴィヌスの造魔という言葉に反応し驚く。カヴィヌス教は今の人類の救いの教会であり、地球上にある全コロニー群も彼らの技術であり、宇宙船ソフィアの箱舟も現在開発中の素晴らしい組織でもあった。理解できないのも無理はないことで承知しており、ヘレナはこの発言に撤回はな一切かった。

「ちょっと、カヴィヌスってコロニーを建設し、宇宙へ脱出するための箱舟を開発中のカヴィヌス教!?なにでたらめ言ってるの。」

「はっきり見せれる証拠はありません。しかし、私の神魔でこの造魔のいた研究所を調べた結果です。」

 

「私はもう行きます。また協力してくれるか伺います。貴女も一刻も早くここを出てくださいね。一般人・国連関係者が来るでしょうし。」

ヘレナはこういうとさっさと姿を消した。茉利華は複雑な気持ちで一杯になっており、訳が分からなくなっていった。

「……」

 

蚩尤はヘレナやカヴィヌスの件には興味はなく、そもそも理解できているかすら不安な感じであったが、茉利華に早く姿を戻してくれと要求する。

「茉利華、サンキュ、もうお前の力はいいぜ。人間の姿に戻してくれ。」

しかし茉利華は急に体を傾け倒れそうになった。蚩尤は驚いたような表情で急いで彼女の体を抱いて支える。この時には既に茉利華は気を失っており、蚩尤も人間の姿に自然と戻っていた。

「飛廉、付いて来てくれ、どうせ暇だろ?」

「ん、いいよー!」

蚩尤は彼女を抱えて運びだし飛廉と共に図書館を出ていった。

 

 

 

ここは閻魔王の統治する魔界種。彼を信じるものは霊魂と肉体が離別後…つまり死後に、この世界に辿り着き、次の世界の行場を裁判にて決められるのである。これが一般に転生とか地獄行とか仏様に行くとかいわれているものであり、ここが六道と称される各世界の分岐点であり、生命の始まりにして終わりの地である。閻魔界の冥府の首都にある閻魔宮の霊魂の審議をするための真実の大鏡がある広間にて、閻魔王とその獄卒のもとへ、中華域天帝の黄帝と大和域女神の天照の二人が話をしに来ていた。

 

「地球に?ありえん。そもそもそこを訪れる理由がない。ましてや襲うなど言語道断。」

閻魔は二人の神の地球上での件について何も関係ないと言った。獄卒の闘鬼馬頭鬼と馬頭鬼は互いに隣にいる相手に相槌を求めながら報告する。

「我々は全員確かにいます。(馬頭鬼:だよね?)」

「地球には誰も行っていません。(牛頭鬼:うんうん。)」

 

「やはり人間が…」

黄帝が人間こそ悪の根源ではないかと疑う。しかし天照は必死に否定し、人間に救いの手を差し伸べるべきというふうにフォローする。

「人間が地球の破壊を試しみているのなら他教のように人間の管理・支配を神々(我々)でもっとすべきかもな。」

「いいえ。人は生きようとしています。地球を急激にこの状態に人だけでは出来ません。何か他の邪悪な神魔のせいでしょう。」

 

一生懸命な天照を見て、黄帝も人を信じようと姿勢を見せる。

「わかった。中華域の神々の意思がまとまり次第、蚩尤に命じ様子をみるとしよう。」

「ありがとうございます、黄帝。これからも中華・大和協力し星と人の為に対策をしていきましょう!」

天照はあまりにも嬉しく、黄帝に抱き付いてしまうが、黄帝は無言で動きもしなかった。閻魔王が、気に障ったのか、咳を一つして、次の話を持ちかけた。

「とにかく最近人間が新宗教を信仰するおかげで、私の世界に霊魂が来ない。どうにかしたいものだが…。」

黄帝が思い出したかのように新宗教について言い始めた。

「新宗教?ああ新大陸域で生まれた、一神教のことか。」

 

 

 

茉利華の夢の中、又は過去の記憶の中なのか。陰陽師としての父姿と幼い頃の自分が現れていた。子供の自分は今にも泣きそうに父親の話を聞いていた。

「仕事でアングロ・アメリカンコロニー群へ行く。アノ邪神もいるし茉利華は大丈夫だね。あと、おばさんの言うことはしっかり聞くんだよ。」

父親は泣いている幼い自分の方に手を添え励ましているようでもあった。第三者のように見ていた茉利華は、急に涙を流し焦るように大声で過去の父親に言い、引き留めようとするが全く聞こえていないようであった。

「行かないで!3日後そのコロニーは事故で…!」

 

 

 

「おっはー茉梨華!」

飛廉の元気な声で目を覚ます。ここは茉利華が暮らしている叔母さんの集団住宅の一部屋だった。起きて自分が過去の夢を見て泣いていたことに気が付いていた。目の前の机に座って、飛廉が夕飯をもぐもぐとても美味しそうに食べていた。

「おばさんの夕飯めっちゃウマいじゃん!」

「!?おばさん、この子も住まわせるの!さっすが、陰陽家」

普通でない居候の神魔が増えた感覚に驚く茉利華。蚩尤が起きてきた茉利華を見て心配そうに寄ってきた。

「悪いな。長くあの姿で、遠距離で力を使わせ過ぎたな。大丈夫か?」

さすがの蚩尤もかなり悪いと反省しているようだった。

蚩尤は茉利華のベッドに勝手に座り、茉利華に体調について聞いた。茉利華が怒った口調で言葉を返す。

「もー、あまり遠くだと私の体力がもたないんだから。」

「あー、すまない。もう離れねえよ。」

 

「ま、当然でしょうね。」

「その言い方はねえだろ。」

少し笑顔になった茉利華に安心し、怒りながらも内面優しく蚩尤が言葉を返していた。

 

日本語わかんな!…といいながら飛廉が大和文の今日の新聞紙を読んでいた。茉利華はその新聞が目に入った。そういえば、図書館の机に置きっ放しにされていた新聞と同じものだと思った。そしてカヴィヌス教の記事が自然と目が行き、図書館であった神魔召喚師のヘレナの発言を思い出した。そして、この組織の本部と過去の悲しい記憶を自然と重ねて考えながら新聞を眺めていた。

「ね、明日も図書館いこ?」

茉利華は蚩尤に呟くように言った。

「あの事件について調べたいの。」

 

 

 

ここはオリエンタルコロニー群。中東・アジア・一部のアフリカとヨーロッパの人々がよりそう巨塔の上にあるドームシェルターの集合体。地上は今も着々と荒廃し続け、未知の生命体や神魔が地球を人の心を混沌とさせ続けているのであった。